新型コロナウイルスは緊急事態宣言がでてから少し落ち着いてきたかのようにみえますが、まだまだ医療現場はひっ迫しており、自粛は引き続き必要となっています。この自粛により、DVなど家庭内での問題も取り上げられてきています。今回は、家庭内での虐待と痛みについての論文を紹介します。

 

「女性における小児期の虐待歴と慢性痛の関係」

 

小児での虐待歴は、一般的な集団に比べて慢性痛を持つ人でより多く報告されています。これまでの研究は、主に、慢性痛を持つ人による以前の虐待経験の報告を調べるという後ろ向き研究でしたが、今回、現時点から未来に向かって情報を集める前向き研究を行っています。

小児での虐待歴のある若い成人女性の集団と、小児での虐待を経験していない若い成人女性の集団とを比較して、痛みの症状を評価しました。14~17歳の若い女性(477名)を対象として19歳まで毎年追跡調査しています。これらの女性のうち57%が虐待(身体的、性的、または精神的虐待、無視)を経験しており、これは児童福祉記録によって証明されています。また、思春期における心的外傷後ストレスについても調査しており、若い成人女性を対象にして、過去 1 週間の痛みの有無、痛みの重症度、痛みのある身体部位の数など、痛みの経験について調べています。これらの結果から、虐待と思春期の心的外傷後ストレスが若い成人女性の痛みに与える影響を検討してみると、児童虐待を経験した女性は、虐待を経験していない女性に比べて、成人になってから、痛みの強度が強く、痛みのある部位の数が多く、過去1週間に痛みを経験する可能性が高いことが分かりました。さらに、児童虐待を経験した若い成人女性で、思春期の心的外傷後ストレスも経験している場合、痛みの生じるリスクが高いことも分かりました。

 

 

『Heightened risk of pain in young adult women with a history of childhood maltreatment: a prospective longitudinal study』

Sarah J Beal, Susmita Kashikar-Zuck, Christopher King, William Black, Jaclyn Barnes, Jennie G Noll: PAIN;161(1):156-165, 2020.