まだまだ新型コロナウイルスによる自粛傾向が続きますが、リモートワークなどで生活リズムが崩れていませんか?
今回は、体内時計として約一日の周期をもつリズムとして知られる、サーカディアンリズム(概日リズム)と痛みについての論文を紹介します。

「サーカディアンリズムと痛み」
サーカディアンリズムは、体の中にある体内時計によって調節される、およそ24時間でのリズムのことです。これは睡眠に深くかかわっており、朝に目が覚めて、夜眠くなるというリズムをつくっています。これには、1日の中での体温や血圧の変動、ホルモンの分泌などもかかわっていると言われています。
サーカディアンリズムは、主に脳の視床下部というところにある神経が調節しており、目からの光刺激に反応し、自律神経を介して、睡眠と痛みの両方の調節に関わるホルモンや伝達物質の分泌を制御しています。これらはサーカディアンリズムの基となるサーカディアン遺伝子が神経に発現することによって調節されています。
 このようにサーカディアンリズムは痛みと関連し、それは双方向の関係があります。例えば、サーカディアンリズムによって調節される睡眠との関係では、睡眠不足の状態になると痛みが維持されてしまうということがあり、また逆に、痛みによって睡眠の開始や維持を損なうことがあります。
 さらに、このサーカディアンリズムによる調節は、痛みの日内変動にも関係します。痛みが生じるパターンとして、朝には痛みが強いが夕方和らぐ、また逆に、昼間は良いが夜間に痛いといったように日内変動を経験することがあります。このような日内変動は、サーカディアンリズムによって、脊髄に痛みを伝える神経において痛みの感受性を高めるセンサーの発現が調節されたり、痛みの抑制に関係する神経において抑制に関わるセンサーの発現が調節されたりということが関連しています。
 また、鎮痛薬の効果に対してもサーカディアンリズムが影響しているという報告があります。例えば、リウマチ患者さんへのステロイド鎮痛薬の投与において、午前中に投与した場合に比べて暗い時間帯に投与した方が朝のこわばりや関節痛の軽減に効果的であったという報告や、非ステロイド性抗炎症薬を変形性関節症患者さんに投与した場合、午前中の痛みが主な患者さんでは夜間投与の方が効果的であるのに対し、午後の痛みが主な患者さんでは午前投与の方が効果的であるなど、投与時間帯によって効果が異なることが示されています。興味深いことに、一般的によく使用されている鎮痛薬において、それらの薬の効果作用部位の多くは、サーカディアン遺伝子によって制御されていることが分かっています。そのため、サーカディアンリズムにより影響される痛みの日内変動をふまえて、薬を投与するタイミングを決めることが、薬の効果を高めるために重要であることが明らかになってきています。

『The circadian clock at the intercept of sleep and pain』
Palada, Vinko; Gilron, Ian; Canlon, Barbara; Svensson, Camilla I.; Kalso, Eija, PAIN: May 2020 – Volume 161 – Issue 5 – p 894-900; doi: 10.1097/j.pain.0000000000001786