新型コロナウイルスによる自粛傾向がまだまだ続いており、運動不足が指摘されています。今回は、運動障害をきたす病気であるパーキンソン病についての論文を紹介します。

「パーキンソン病の歩行障害に対する脊髄刺激療法」
~パーキンソン病とは~
脳の黒質という部分の神経細胞の異常によって、脳内の伝達物質のドーパミンが不足し、手足のふるえ、小刻みの歩行など運動障害が生じる進行性の病気です。発症のピークは50~60歳代で、高齢になるほど発症率が高くなり、65歳以上では約100人に1人にのぼります。現在、日本では15万人以上の方が発症しています。
治療は、薬物療法が中心で、不足したドーパミンを補うためにレボドパといった薬を投与します。最近では脳の深部を電気刺激する療法や、遺伝子治療といったものも開発されています。また、運動障害に対して、運動療法などのリハビリテーションも併せて行っていきます。

これまでにパーキンソン病の治療として行われている、脳深部刺激療法や、レボドパによる薬物療法は、パーキンソン病の運動障害の症状を改善することが報告されていますが、その効果は長期的には持続していません。そこで、この論文では、進行性パーキンソン病の歩行障害に対する脊髄刺激の安全性と有効性を検討しています。
研究の方法: 脳深部刺激療法を行っていたが数年後に著しい姿勢不安定と歩行障害を生じた4名のパーキンソン病患者さんを対象にしています。それらの患者さんに対して、脊髄に300Hzの電気刺激を行って、その効果をみています。計測したものは、歩行測定としてTimed-Up-GOテスト(椅子から立ち上がって、3m先の目標物でUターンして椅子に戻るまでの時間を計測)、および、20m歩行テストを用いています。また、パーキンソン病統一スケール(UPDRS III)、歩行の質問票、QOLスコアを測定しています。それらを、脊髄の電気刺激療法を始める前と、始めて6ヵ月後に測定して比較しています。
結果: 脊髄刺激による治療を受けた患者さんでは、歩行測定(Timed-Up-GOテスト、20m歩行テスト)において約50~65%の改善がみられました。また、UPDRS IIIおよびQOLスコアでは35~45%の改善がみられました。
これらの研究結果から、脊髄に300Hzの電気刺激を行うことによって、パーキンソン病患者さんの歩行が有意に改善することが分かりました。

『Spinal cord stimulation improves gait in patients with Parkinson’s disease previously treated with deep brain stimulation』
Carolina Pinto de Souza, Clement Hamani, Carolina Oliveira Souza, William Omar Lopez Contreras, Maria Gabriela dos Santos Ghilardi, Rubens Gisbert Cury, Egberto Reis Barbosa, Manoel Jacobsen Teixeira, Erich Talamoni Fonoff; Movement Disorders Volume 32, Issue 2, 2017.