新型コロナウイルス(COVID-19)感染症はいまだ終息しておらず、脅威が続いています。治療薬・ワクチンが開発されつつありますが、未解明な部分が多く、治療法の確立には至っていません。
そこで今回は、ウイルス感染による痛みについての記事を紹介していきます。
 
「ウイルス感染による痛みとインターフェロン」
 
ウイルス感染の最初の兆候の一つは、全身の痛みです。この痛みは通常は次第に治まりますが、極端な場合には、痛みを伴う神経障害を引き起こし、数十年も痛みが続くことがあります。
これまでウイルスにより強い痛みが続いてしまうメカニズムはよく分かっていませんでしたが、今回紹介する論文によって、インターフェロンが関与していることが分かってきました。

~インターフェロンとは~
ウイルスなどの異物の侵入に反応して細胞が分泌する蛋白質のこと。
周囲の細胞に働く(細胞シグナル伝達)ことにより、ウイルス増殖の阻止、免疫系、炎症の調節などの働きをする。

これまで、細菌や真菌など様々な病原体においては、痛みのセンサーが関与して、初期の免疫反応として生体の防御機構が働くことが分かってきていましたが、ウイルスでのメカニズムは不明でした。
ウイルスに感染した際の体の反応において、インターフェロンの産生は重要です。インターフェロンはその特定の受容体であるインターフェロン受容体にくっつくことで、細胞を活性化し、様々な反応をもたらします。
そこで論文筆者らは、インターフェロンに注目して、痛みのセンサーとの関連を調べています。
マウスを用いた実験において、マウスがウイルスに感染すると、Ⅰ型のインターフェロン受容体が、脊髄に痛みを伝える神経細胞に発現することが分かりました。そして、そこにⅠ型インターフェロンがくっつくことで、神経細胞の過剰な興奮が生じて、痛みを引き起こすことが証明されました
また、この過剰な興奮をおこす要因として、さきほどの神経細胞の中でMNK-eIF4Eというシグナル伝達がおこり、痛みの過敏性を促進することが分かりました。この裏付け実験として、MNK-eIF4Eシグナル伝達の経路を人工的に欠損させたマウスでは痛みの過敏性が生じにくいことが示されています。
これらのことから、ウイルス感染によってI型インターフェロンが痛みのセンサーに直接作用し、特定のシグナル伝達経路(MNK-eIF4Eシグナル)を介して痛みの感受性の促進を引き起こすことが示されました。
この知見は、ウイルス感染がどのように痛みを促進し、神経障害を引き起こすかを理解する上で重要な意味を持つと考えられます。
 
 
『Type I Interferons Act Directly on Nociceptors to Produce Pain Sensitization: Implications for Viral Infection-Induced Pain』
 
Paulino Barragán-Iglesias, Úrzula Franco-Enzástiga, Vivekanand Jeevakumar, Stephanie Shiers, Andi Wangzhou, Vinicio Granados-Soto, Zachary T. Campbell, Gregory Dussor and Theodore J. Price, Journal of Neuroscience 29 April 2020, 40 (18) 3517-3532; DOI: https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3055-19.2020